2006年11月20日

友人、知人から仕事を頼まれることがあります。ありがたいことです。

ほとんどは、需要と供給の関係に加えて、やはり知っている人に頼むと安心だからということで、お互いに めでたしめでたし となります。仲のよい友達などには、少し値引きをします。

よほどの理由がなければ僕は断らないのですが、仕事を頼んでくれる友人、知人の中でも残念ながらお断りすることがあります。依頼された仕事をすることによってその人との関係が悪くなる場合です。どんな仕事か一言で言うと (裏のある) 仕事です。

つい先日のことでした。

僕より少し年上の女性でした。
「ここにすごく腕のいい、誠実なカギ屋さんがいてはると聞いたんで、カギの交換をお願いしたいんです・・」

僕はあまりほめられることがないので、おだてられると有頂天になる癖があります。嬉しかったので喜んでその方の要望を聞こうとしました。その方はかなり焦っている様子でした。

「○○○というメーカーのカギで、珍しいからすぐにあるかわかりませんよね・・」といいながらも、どうしても僕にカギを換えて欲しいようでした。

話を聞いていくうちに、「カギを取り付けた後は、完全に扉を元通りに戻してください。カギを換えたという形跡を残さないで下さい」「○○から○○(日時)の間に来てくれませんか」「いくらお金がかかっても結構です」(かなりの高額を提示されました)など、かなり細かい希望をおっしゃられました。

僕は、僕ができる範囲のことを伝えました。とにかくどのような錠前がついているか確かめるため、その家にお伺いしようと御住所をお聞きしました。その方の言う家はかなり特徴のある家でした。僕は一発でその方の家がわかったので「○○さんですか?」とお聞きしました。その家に住む主は、僕が幼いときに大変お世話になった方でした。

その方は驚いたように
「知ってるんですか?」と目を丸くして僕を見つめました。

そして

「父と連絡を今でもとっているんですか?」としつこく聞いてきました。

「お会いしたら挨拶するくらいですよ。いい方ですね」と申し上げましたところ、かなり動揺されたようでした。僕は、その家に住む主に娘がいたことは知ってはいましたが、この方だとは知りませんでした。初対面でした。

その方の動揺ぶりから、何かこの依頼には(裏がある)と感じました。

結局、「どういう理由があるか存じませんが、何かを秘密にしなければならないような仕事はお受けできません」と、その方の仕事はお断りしました。

案の定「私がここに来たことは、誰にも言わないで下さい。特に父には絶対に言わないで下さい」と僕に念をおされました。僕も「ここに来たことは、僕は何も知らないことにしておきます」と言ったのでその方は安心してお帰りになられました。


僕は早速、その方の禁をやぶって、母にその方の話を聞きました(もちろんその方が来られたことなどは言っておりません。この家の状況を聞いたまでです)。内容はかなりローカルなのでここでは省略させていただきますが、やはり仕事を請けなくて良かったと思いました。テレビドラマさながらのドロドロ劇でした。

その方が、別のカギ屋に仕事を頼んだかどうかはわかりません。おそらくどのカギ屋も理由を知ったら請けないだろうと思います。

僕は、知人の仕事を請けることにも、よりいっそう慎重にならなければ、と心を引き締めるとともに、主婦の情報の速さに脱帽いたしました。
posted by ロン at 18:32| 上海 ??| Comment(0) | TrackBack(0) | カギ屋の徒然日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月18日

久しぶりにその方(Pさんとします)はお越しになられました。実に3ヶ月ぶりくらいでした。

お話によると、腸にポリープができて切除のために入院し、退院したのですが、すぐに又、大出血して命からがら救急車で運ばれて、再入院されたということです。

Pさんは、某有名製造メーカーのエンジニアだと言うことでした。僕もこの方にいろいろ教わりました。

「久しぶりにここに来たけど、まだ本調子とちゃうわ。まだ顔、白いやろ。ごっつい出血したから、輸血までしたんやで。会社が今週いっぱい休みをくれたからここに来てん。」

やっと病院から出てきた喜びのためか、いつもより饒舌でした。しゃべりたくてたまらない様子でした。

お客様はPさんしかいらっしゃらなかったので、大きな声でいろいろな世間話をしておりました。

ふとしたことから、健康の話になりました。Pさんにとっては先日まで入院していたので、かなり白熱した話し合いになりました。

僕も今年の春に血液検査をした際に、肝臓と腎臓に少し異常値が出ておりました。ところが、ある健康食品を食べ始めてから異常値がなくなり、お医者さんもかなり興奮して喜んでくれたという経験があります。そのことをPさんに話しました。Pさんは、この話にものすごく興味があるようだったので僕は嬉しくなって、機関銃のように喋り捲りました。

Pさんが僕の話に熱中している時でした。

1匹の虫が飛んできました。肌色の蛾のような虫でした。小豆のような大きさでした。

その虫はPさんの顔の周りを回ってました。Pさんは、僕の話に夢中で虫のことなど気付いておりませんでした。

僕は、その虫を目で追ってました。



その時でした。



虫は、Pさんの口の中へ入っていきました。そしてそのまま・・

・・呑みこんだようでした

Pさんは話に熱中して、僕の引きつった顔も、虫の味も感じていなかったでしょう。

僕は、口の中に虫が入ったことを言うべきか言わざるべきか迷いました。

結局、僕はいい子でいたかったので、そのままにして何も言わず話を続けました。



次の日もPさんはお越しになられました。

「やっぱり、体の調子があんまり良くないわ。本調子ちゃうわ」


Pさん、あなたは頑丈な体を持っています。
posted by ロン at 22:14| 上海 ?J| Comment(0) | TrackBack(0) | 珍客日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月15日

まぼろし

その方(Mさんとします)は、3年ほど前に初めて僕の店に来られました。

年は、70歳くらいでがっちりした体格、顔に深く刻み込まれた皺から、強い親父という感じの方でした。

店に来られるたびに、世間話、お互いの仕事の話、お互いの自慢話などをよくし、時々、洋服のリフォームの仕事などをくれたりしました。

ある日、Mさんからあるものの修理をうけたまわりました。その修理は複雑なものではなく、少しの時間でできるものでした。僕は、相変わらずMさんと世間話をしながら修理をして、お返しいたしました。

数日してMさんが「兄ちゃん、これ、すぐに元通りになってしもたで」と少し怒った様子で店にお越しになられました。

僕はどうして元通りになってしまったのか、その原因を見つけようしました。いたらない僕の修理によって、Mさんに御足労をおかけしたことを申し訳なく思うとともに、また同じ失敗を繰り返すことが最も迷惑をかけることになるので、
「お預かりさせていただけませんか?時間をかけて、できるだけの修理をさせていただきます。申し訳ありません」と申し上げました。Mさんはそのものをじっと見つめるだけでした。仲良くなったMさんに本当に申し訳なく思いました。

気まずい時間が過ぎていきました。

「あんた・・申年か?」

突然のMさんの問いかけでした。その口調は少し怒りを帯びているというより、僕に助け舟を出しているようにも感じられました。

「申年ですけど・・よくお分かりになりましたね」

「あんた、よう似とるわ」

Mさんと一緒に来ていた奥さんがそわそわしはじめました。

「あんた、うちの息子によう似とるわ」

Mさんが僕に寛容な理由が、わかったような気がしました。息子さんと僕を重ね合わせて、僕に優しくしてくれたんだと思いました。

「息子さんに、僕、似てるんですかね?」

僕にとって重い雰囲気だったので、話を変えようと、明るく言った一言でした。

「わしは息子を亡くしたんや。もう6年前やけどな・・」

息子さんを亡くされたことを僕に話してくれました。まぶたをその武骨な手でぬぐいながら、病気と闘いながら亡くなっていった、僕と同い年の息子さんのことを涙声で話してくれました。本当に悲しい、魂の声でした。

今でも、Mさんはしばしば僕の店に寄ってくれます。そして、僕の店にお金を落としていってくれます。それは、何かの罪滅ぼしかと思うほど、無理に僕に仕事をくれているようにも思えます。僕はMさんが満足されるように、敢えて自然体で接するようにしております。


人間の「死」は、自らの「死」のみならず、その人間を取り巻くかけがえのない人達を、魂の放浪者にしてしまいます。

Mさんは、僕と息子さんの間(はざま)、生と死の間の「まぼろし」を追い求め、悲しみと癒しを繰り返しながら、その生の続く限り彷徨うのでしょう。



最近、少年少女たちの自殺が後を絶ちません。

自らの命を絶とうとする少年少女たちに伝えたい言葉があります。



人間は、生まれた時からその体に、自分の「命」だけを背負っているのではなく、あなた達を最も愛する、かけがえのない人達の「心」をも背負っているのです。

あなた達の「命」が、そのかけがえのない人達の「心」、そして「命」の支えになっていることを胸に刻んでください。



今日はMさんの想いと、自ら命を絶った僕の友達を想いながら書きました。

今日はカギ屋ではなく、1人の人間として書きました。
posted by ロン at 23:22| 上海 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | カギ屋の徒然日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月08日

イエス・キリスト

僕の一言が、思いもよらないことを引き起こしたことがあります。

今年の夏のことでした。
「お客さんの部屋のカギを換えてあげようと思うんですが、どんなカギがありますか?」と聞いてこられました。

その方は住宅のリフォームをされている方でした。誠実さが顔に滲み出ておりました。お客様の要望を低予算で仕上げてあげようとしておりました。その腰の低さ、物腰の柔らかさからやさしい人柄が感じられました。

僕の店には、カギを御自分で取換えをしようとされる方が多々相談に来られます。この方もお客様のために、自身で取換えをしようとされていました。

玄関の扉のカギに関しては、メーカー、錠前の形式、扉厚などを調べてきていただけたら、こちらで取換え用のシリンダーを特定し、取り換え方を説明して、めでたしめでたしとなりますが、室内錠となると、お客様の言葉だけで錠前の形式を特定することがかなり難しくなります。

僕は、その方に
「一度、そのカギを見れば取換え用の錠前が特定できるのですが・・」と申しあげました。

お客様は「そうですか・・」といって、少し肩を落とされてお帰りになられました。


3〜4日経ってから、その方がお越しになられました。

いきなり
「私について来てもらえますか」とおっしゃられました。

僕は
(この間の説明が気にいらなかったのだろうか?連れ出されて殴られるのかな?やさしそうな顔をされてるのに・・)などと、1人で起承転結を想像しておりました。

想像を膨らませながら、その方のあとをついていくと
「これを見てください」といって、その方は車(バン)のドアを開けました。

一枚の扉が入っておりました。

この方は、僕にカギを見せるために扉をそのままお持ちになられたのです。

おそらくカギに関しては、知識がなかったので、取り外しをせずにそのまま扉を持って来られたのでしょう。不器用なところに、あらためてこの方の人柄を感じました。

僕は、その扉についているカギが僕の店にあるかどうかを調べるために、店までその扉を運びました。そのカギは室内錠にしては珍しく、棒鍵のケース錠で、すでに廃番になっているものでした。相当古いものでした。

何故か僕のコレクションの中にそのカギの新品がありました。今となってはかなり貴重なもので、僕はもしこの方が、欲しいとおっしゃられたらどうしようと思っておりました。

その方は
「別にこのカギを新しくしようとするつもりはありません。古いので、新しくて使いやすくて見栄えのいいものを安く付けたいのですが」とおっしゃられました。ホッとしました。

結局、このカギのサイズにぴったり、または似たようなものは無く、他の型のカギを取り付ける手間を考えると、現状のままにすることになりました。ただ、相当に古いカギだったので、ノブの根元についているパッキンが擦り切れて無くなってガタツキがありましたので、少し調整をさせていただきました。

その方は
「ありがとうございました」といって、その扉を背負って車に戻っていかれました。


僕は人間のちょっとした一言によって、思いがけないことを引き起こすことがあるんだなと、少し「罪」の意識を感じていました。

その方の扉を背負った後姿は、十字架にはりつけられたイエス・キリストのように見えました。

その方は扉に加えて、僕の「罪」をも背負ってくださったのかも知れません。

・・アーメン・・
posted by ロン at 22:49| 上海 ????| Comment(0) | TrackBack(0) | 珍客日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月05日

商売は生き物である

つい先日のことでした。

9月8日付のブログで紹介させていただいた方がやってこられて、例の表札をお買い上げになられました。実に19ヶ月目のお引取りでした。

その方は、先ず「このカギ、ナンボする?」といって合鍵を注文されました。

僕は「・・円ですが」と言った後に、「表札、届いてますよ」と申し上げました。その方は何もなかったように「届いたか。できとったか。」とおっしゃられました。


「お待ちしておりましたよ」

「電話かけてくれたか?」

「電話もかけさせていただきましたよ」

「そうか。できとったか。兄ちゃんとは、よう会うで。○○○(僕がよく行く鉄板焼屋)でも、あんたをよう見るわ」


少しかみ合わない会話でした。


この方の時間の流れはどうなっているのだろう?と思いながら、表札のお代金を受け取りました。長い間僕の店の棚にあった、その表札と別れを告げました。少し名残惜しかったです。

僕は、嬉しさのあまり、その表札のメーカーの担当者に電話をかけて
「去年の表札、今日お引取りになられました」と言いました。

表札メーカーの担当者も喜んでくれました。


珍しいお名前の表札は、前払いでいただきましょう。
posted by ロン at 22:05| 上海 ??| Comment(0) | TrackBack(0) | カギ屋の徒然日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする